偶然の学校

「逃げちゃおう」

2014年12月、僕は新卒で入社した会社を8ヶ月で辞めた。

「会社を辞めた。」と親に話した時の事はまだ覚えている。
とってもビックリしていた。
そりゃそうだ。朝、元気に行ってきますと言って家出た息子が帰宅して開口一番に「会社辞めたわ。」だなんて、びっくりするに決まっている。

理由はごまかしていたからはっきりとは言っていなかった。
友人には上司と喧嘩したと話していた。

確かに原因は上司だったが、喧嘩では無かった。
本当は、相手の厳しさに自分が耐えられなかっただけだった。

そう、僕は逃げたのだった。

1社目の上司は、僕にとってとても厳しい人だった。

例えば口調。
僕は同期を呼ぶ時に○○ちゃん、○○君と呼んでいたが、それがまずあり得なかった。「○○さんだ。同期は友達じゃない、会社の同僚だ。」と朝、掃除しながら怒られた。
仰るとおりだ。
しかし、僕は一緒に働く人とは壁を作らず仲良くなりたかった。同期は特に呼び方で距離を感じさせたくなかったのだった。

また、上司が同僚の愚痴を小言のように話している事も嫌だった。
「○○さんはこの部分がダメだよね~」とよく仲の良い主任と話していた。
上司の言っていることは的を射ていたのかも知れない。ただ、僕も自分がいないところで言われているのではないかと思ってしまったのだった。
言われたくなかったから極力目立たないようにしていた。

とにかく、僕にとってその人の厳しさは苦しかった。

そう、過去にも二回、僕は厳しさに耐えられず人から逃げていた。

それぞれ学生時代のバイトの社員だった。
レストランと寿司の宅配だったが、それぞれの上司は二人とも仕事中はとても厳しかった。罵声や怒号を飛ばす、物にあたるなど、日常茶飯事だった。

そのような環境でミスをしたり仕事が遅ければ怒られ、それに慌ててまたミスをする…。
この繰り返しだった。
何故ミスをするのだろうと自分を責め、自分の無能ぶりに相当落ち込んだ。
僕は完全に萎縮していた。

しかし、この社員達は二人ともお客さんにはどんな時も超絶丁寧で、また仕事が終わると不思議と優しかった。

これがその人達の仕事のスタイルなのだろう。
「ただ職人気質なだけだ。」と周りは言っていた。
僕もそう考え、ついていこうとした。

しかし、僕はその環境について行けなかった。
怒られる事に耐えられず、それぞれ適当な理由をつけて半年で辞めた。
その人達が怖くて仕方なかったからだ。

そんな大学生活を通って、満を持して社会に出た。
そして結果がこれだ。またしても僕は逃げたのだ。

職場の上司は大学の時のバイトの社員と同じだった。怒号や罵声は飛び交わなかったが、よく怒られ、それに完全に怖じ気づいた僕は逃げた。

ここまで読んで、「こいつぁ、とてつもない根性無しだな。」と思われるかもしれない。
我ながらそう思う。自分には逃げ癖があると思っている。
ただし、逃げることは、そんなに悪いことなのだろうか。

会社を辞める前、逃げる前は家族や友人にどう思われるかが怖かった。
また、無職の自分が想像できず、先が決まらないまま辞めるなんてあり得ないと思っていた。
しかしあの厳しさ、苦しさを耐える事がそれ以上に僕にはあり得なかった。

そこで、僕は辞めた。

いざ辞めてみると、何も変わらなかった。
家族も友人も普通に接してくれていた。

むしろ、その環境からの解放が僕の心をとても軽くし、会社に属していないからこそ何でも出来るかも、という自分の可能性に希望も感じた。
「今まで学生、会社員とラベルを貼られていて、その中で縛られていたのかも知れないなぁ。」とふと思ったりもした。
そう言ったラベルが無くなったからこそ、何にも左右されず自分を見つめ直すことが出来た。

逃げた事でここまでプラスに色々考える事が出来た経験があるのだから、僕はこの逃げ癖を捨てる気や克服する気はない。

なんなら皆さんも学校や会社が辛いなら、無理して行く位なら辞めちゃいましょうよ。
もっと気楽に逃げちゃいましょうよ、と僕は言いたい。

とは言え実際問題、逃げられない、逃げる考えが持てない人がいる。
それは、世の中が逃げる事にまだまだ厳しいからなのかなと思う事がある。

“逃げる事=間違い”、”向き合う事=正解”
果たしてそうなのだろうか。

誰が何と言おうと逃げる時は逃げる。逃げて逃げて逃げまくる

そんなんじゃどこでもやっていけない? 上等だ
厳しい環境で人は成長する? うるせえ
相手は君の事を思って言っている? そんなんこっちがどう捉えるかだ。
色々な世界があって良いじゃないかと思う。

僕みたいな根性無しの経験から思う事は、自分の居場所が無いと感じたり、今の環境で我慢している事があるなら、とりあえず逃げよう。

学校も会社も辞める。

息苦しいならとにかくその場所から走って逃げる、行き先は走ってから考える。
案外他の選択肢はすぐ見つかる。

一社目を8ヶ月で辞めた男は気付けば二社目の会社を今日まで3年半働き、関西の拠点の立ち上げを任される程度にはなった(現在関西で一緒に働いてくれる人募集中です)。

今の会社は一社目の会社と比べると、会社としての歴史は浅いがとてものびのび働ける。

例えば一社目の会社で怒られた口調。
僕は今の会社で後輩のことをあだ名で呼んでいる。
もしかしたらちゃん付けよりも怒られるかも知れないが、全く何も言われないしそれが定着している。

単純に1社目より緩い会社なのかも知れない。
ただ、それによって自分から積極的に意見を言いやすい環境でもある。
昔感じた苦しさも全く感じず、楽しく働き三年半が経つ。
後輩も沢山増えて、気付けば自分が上司の立場になった。

ミスをしないわけでは無い。怒られる時は怒られる。
ただ一社目とは違い、逃げる事無く自分自身を100%出し切れている。
きっと今の環境が自分にとても合っているのだろう。

僕が見つけられたのだから、誰だって自分を100%出し切れる、合った環境見つけることは出来るはず。

“その環境を見つける為にも気楽に逃げる”
そういう考えがあってもたまには良いじゃないか。

筆者プロフィール

「偶然の学校」2期生名和恵祐
音楽と旅行とサウナと家族と犬が大好きな華の平成3年生まれ。
とあるIT企業の関西所長。
関東大好きだったのに気付けば関西拠点の立ち上げとして大阪にやってきました。
ホームサウナは笹塚マルシンスパ、好きなカレーは笹塚の茶豆。
笹塚に帰りたい。
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