偶然の学校

「小さな一歩、大きな一歩」

はじめの「小さな一歩」は映画が踏み出させてくれた

私は宮城県にある小さな町で生まれ育った。

そこは、隣の家のおばあちゃん、新聞配達にくるおじちゃん、みんな家族ぐるみで顔馴染みのような場所だった。

生まれた時から高校を卒業するまで、私はそんな小さなコミュニティで育った。 高校時代の私は、深夜時間枠で放送されている映画を観る事がとても好きだった。 普段、あまり外の世界を知ることが少ない私にとって、この映画を観る時間が非日常を味わう貴重な時間だった。

将来何がしたいのか、そもそも自分に何ができるのか。

その頃の私は自分で意思決定をする事が苦手で、周りの目ばかりを気にして、不安でいっぱいだった。 そんな時にも毎日のように夜更かしをして映画を観ていると、どんどん外の世界への興味が次第に大きくなっていき、映画の中でしか存在しなかった外国の地へ想いを馳せるようになった。

そのきっかけをくれた作品が「ギルバート・グレイプ」だ。

あらすじ:映画の主人公はギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)。彼は今まで1度も生まれ育った町から出たことがなく、いつか他の町で住んでみたいと刺激を求める若者。しかし、彼は父親が自殺したため、一家の大黒柱的な役割を担っている。母親は夫の自殺のショックで過食症になり、 家から出ることがない日々。弟のアーニー(レオナルド・ディカプリオ)は知的障害を持ち、ギルバートは多くの時間を彼と過ごす。

刺激のない日々を過ごすギルバートが住む町に、旅人ベッキー(ジュリエット・ルイス)がやってくる。それをきっかけにギルバートはやっと「他人のため」ではなく、「自分のため」の人生について考えるようになる。

ベッキーが「他人のため」に生きていたギルバートへ、問いかけるこんなシーンがある。

“It’s what you do that really matters. So what do you want to do?”

訳:本当に大事なのは何をするかだわ。あなたは何がしたいの?

まさに自分に問われているようだった。
「自分」は何がしたいの?と。
そんな自問自答を繰り返してやっとでた答えとして、
もっと自分の目で世界をみてみたい。 文化も言語も環境も肌の色も異なる人たちと同じ視点から物事をみてみたい。そんな風に、強く感じたのを昨日のことのように覚えている。

そして、観光学部がある大学を調べて何の迷いもなく将来の道をすんなりと決めたのであった。 これが私の初めての「小さな一歩」である。

上京してから

自分の意思で決めた一歩は、これまでと違って全く後悔がなかった。 うまくいかなかった時は他人のせいに、うまくいった時でさえも何故か腑に落ちない気持ちだったのに、自分で決めた事にはネガティブポイントがなかった。 とても清々しく、自分のことがちょっと好きになれた気がした。 東京の大学に入り、週に7日もバイトをして50万を貯め、やっとの思いで夏休みにアイルランドに行った。

初めての海外だった。そしてそれは私にとっての第二の「小さな一歩」だった。

毎日、朝起きてご飯を食べ、歩いて学校に行き、友達とご飯を食べて、家に帰る。 日本にいる時と何の変わりもないルーチンで過ごしていたはずなのに、急に今までの当たり前が当たり前じゃなくなっていって、急に世界が変わっていくような気がした。

私は第二の「小さな一歩」を踏み出して行ったダブリンの街並みを一生忘れないだろう。

小さな一歩を歩み続けたわたしができること

新しい世界へ踏み出すには勇気がいるし、体力もいる。 周りから何て思われるだろう。とか、失敗したらどうしよう。とかあらゆる事を考えられてしまうものだ。
でも、その一歩を踏み出した人にしか味わうことのできない世界がある。 わたしはその時、何かあたたかいものに包まれて、大丈夫だよって言われたような気がした。 世界中の人が味方のようにさえ思えた。

学校・会社を辞めたい人や生きる事に疲れてしまった人、 私と同じく、せまいせまいコミュニティの中で悩んでるだけで、もしかしたら小さな一歩を踏み出していないだけかも知れない。

どんなに小さな一歩でも新しい世界への希望を頼りに、一緒に歩み続けてみませんか? ふと振り返った時に、大きな一歩になってくれていることを信じて。

筆者プロフィール

「偶然の学校」3期生黒羽響子
観光学部卒→旅行会社勤務/次に行きたい国はモロッコ
Follow :