偶然の学校

「“母親”初心者」

 

昨春に第一子である娘を出産した。育児を始めてもうすぐ一年。
この一年は子供と、何より自分と向き合った時間だったと感じている。

妊娠出産での価値観

人はそれぞれの価値観を持っていて、それは生涯取り巻く環境によって変わり続けるものだろう。

人生には価値観が大きく変わる出来事がいくつかあると思うが、私の場合はその一つが妊娠・出産だった。妊娠前は、漠然と妊婦さんは皆『我が子を待ちわびて毎日幸せ!』なんてイメージを持っていた。

しかし実際は、悪阻や貧血などの体調不良だけでなく、体を冷やすな、カフェイン・アルコール・生もの禁止、葉酸と鉄分摂取に体重制限・・・と体に気を遣う事に縛られ、子供の誕生準備を楽しむマタニティライフとは縁遠いものだった。

そして産後は、夜泣きと授乳を繰り返し、明るくなり始めた窓を見て変化のない一日が始まる切なさに涙が溢れる日々。当たり前だが、今まで毎日自分のために使っていた時間も労力も、誕生の日を境に突然24時間娘のためへと変わり、妊娠から出産で私の価値の判断軸は驚くほど常に娘中心となった。

例えば外出をする時に選ぶ場所は、駅にエレベーターがあり、近くに授乳室とオムツ台、遊び場があるかを確認して、赤ちゃんが入れるランチ店の予約は欠かさない。元々大好きなショッピングですら、自分の春物を買いに行ったはずが、帰ってみたら娘の春物だらけだったりする。我ながら随分と変わったなぁと思う。

新たな価値観を誇ること

友人の多くはまだ子供がおらず、仕事に趣味に忙しない日々を送っている。一方の自分は手探りの中、同じことを繰り返す毎日。育児で関わる人は大まかに娘・旦那・親・ママ友・児童館の方くらいで、私は友人や社会から置いていかれているような、自分だけ時が止まってしまったかのような不安感を覚えていた。きっと急激に変わる価値観のスピードに追い付けない自分がいたのだろう。

私は産休前まで、食品メーカーの原材料調達部で主に大手コンビニや外食向けの商売、海外工場の生産管理などを行っており、新卒から務めて5年、なんだかんだで自分の仕事にやりがいを感じていた。

仕事では上司やお客さんに認められれば手応えがあるし、新規商売が決まれば目に見えた達成感がある。しかし、育児にそれはない。そんな時、母が冗談で発した『育児を給与換算したらあなた結構稼いでるね』という言葉にその時の私はなんだかとても救われた。兄と私を育てた母が私を『母親』として認めてくれ、育児に初めて自信が持てた瞬間だった。確かに育児には正解が無い分、達成感を見出すのは難しいかもしれない。だけど、自分が娘のために何かをする幸福感だったり、娘の成長で感じる喜び、娘と一緒に過ごす穏やかな時間が私の中に新しい価値観を形成している事を嬉しく思うし、この価値観をもっと誇れるようになりたい。

育児は育自

親の立場に立って初めて『子供と共に生きる』責任感を意識することが増えた。自分の人生は自分だけのものではなくなり、子供のために生きるというニュアンスが色濃くなる。計画的に進まず試行錯誤の毎日に疲弊して、逃げ出したくなる時もしばしばある。

しかし、最近の私は新しい価値観と上手く付き合う術を覚えた。限界を感じた時にどう対処し乗り越えられるかを客観的に楽しめるようになり、自然と生きやすい方向に導びけるようになったのだと思う。

育児を通じて、自分の意外な図太さや鈍感力に気付いたり、逆に馬鹿みたいに繊細で臆病な部分を発見したり、知らなかった自分の新たな一面に沢山出会う。育児をしているからこそ増す人間味や成長があるような気がする。今後も『お母さん』になれたこと、生まれてきてくれた娘に感謝しながら子供と自分の成長を楽しんでいきたい。

皆さんも将来、子育てをする時が来たら是非、子供と一緒に自分の成長も楽しんでみてほしい。

筆者プロフィール

「偶然の学校」1期生青木麻里子
趣味はマラソンとお酒と人間観察。
上智ポル語→食品メーカー(ブラジルの鶏肉担当)
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