偶然の学校

「「変わりたい」が、今の私の原動力」

 

私は生来の省エネ人間でした。エネルギーの要ることは極力しません。嫌なことにはそっと蓋をして、なるべく平常でいようとします。怒ったり泣いたりするのは疲れるから。そんな私が、俳優という職業を選びました。

中身のある人間になりたい

繰り返しになりますが、省エネ人間だった私は、なるべくエネルギーを使わない方向(つまり、自分の楽な方向)ばかり選択していました。「高校受験って大変そうだな」と推薦で大学附属の高校へ入学し、そのまま推薦で大学へ進学。今思うと、人生の選択を安易に決めてしまっていたなと反省しております。

大学時代はファッションに夢中になり、サークルでファッション系のフリーペーパーを創ったり、アルバイト代の大半を服につぎ込み、原宿で出会った友達たちと服屋をぶらぶら渡り歩くような生活をしていました。その当時は、そのままファッション業界に進むものだと思っていたのですが、就職活動を目前にして急に悩みはじめました。見た目ばかり気にして、中身が伴っていない自分に気づいたのです。これが本当にやりたいことなのか考えるようになりました。

ある日、「就職どうする?」と友人たちとコーヒーを飲みながら話していた時に、友人の一人が俳優の仕事について熱く語り始めました。純粋に興味を持ち、同時に兼ねてから気になっていた”中身のある人間”になる糸口があるのではないかという気持ちがきっかけで、すぐに演技のワークショップを受講しました。その時の先生が「俳優は3日やったらハマるよ」とお話されていたのを覚えています。生まれて初めての演技は本当に酷いものでしたが、それを含めて楽しい気持ちで心が満たされました。この時俳優として生きようと決めたのです。

省エネ人間からの卒業

個人的な考えかもしれませんが、この仕事は体力的・精神的に強くないと続かないなとしみじみ思います。俳優を始めてからしばらくの間、自分の予期せぬ失敗が度々起こり、その度に「死ぬんじゃないか」と追い込まれました、精神的に。

「もう嫌だ」と、それまでの自分だったら蓋をしてしまっていたと思います。今となっては笑い話ですが、ふとした時に精神的に追い込んでいるのは他でもない自分であり、苦しもうとしているのも自分だと気づきました。蓋をして何も考えないようにする今まで通りのやり方の方が楽だったのでしょう。そこから少しずつ「失敗しても死ぬわけじゃない」と切り替えられるようになりました。今では新しい自分になれるチャンスだと前向きに捉えています。

「こうすれば、うまくいく」を手放す

たくさんのオーディション・撮影現場と、偶然の学校を通して身体で覚えました。

過去の成功体験はその時だけのものであって、同じことを繰り返していては前に進めません。今この瞬間に集中して、もっといい方法がないか探究することこそが、生きていく上で自分の人生をより豊かにする方法なのではないかと思います。

偶然の学校はそれを実践できる環境です。毎月「今この瞬間に集中」することを共にやったクラスメイトたちは、今ではかけがえのない戦友です。

最後に、映画「クリード 炎の宿敵」より、ロッキー・バルボアがクリードに伝えた言葉をここに書き記したいと思います。

−大きく変えたいことがあるなら、お前が変わるしかないんだ−

筆者プロフィール

「偶然の学校」3期生加藤 才紀子
女優、東京都出身。
2016年に映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』の生徒役でスクリーンデビュー。SNSの世界観が注目を集め、映画、CM、MVなど映像作品を中心に活躍。